「貴賓館」は、1918年(大正7年)、藤田観光のルーツである藤田財閥創設者の嫡男・藤田平太郎男爵の別荘として建てられました。
その後、藤田観光初代社長・小川栄一が譲り受け、「一部特権階級の持ち物であった建物を一般に開放し、鑑賞してもらうとともに旅の疲れを癒す憩いの場をつくる」という思想のもと、1948年(昭和23年)に旅館として開業。数十年間にわたり宿泊棟として使用されていました。
建築物、庭園ともに大切に保存され、国の有形文化財建造物にも登録。蕎麦屋としてリニューアルした今も、100年前と変わらない情緒を伝えています。
「貴賓館」が建てられた当時の箱根は、政治家や華族、財界人たちがこぞって訪れた日本有数の別荘地。その中でも藤田家がこの場所を選んだ理由は、ここから眺める“月の美しさ”にありました。
貴賓館はほぼ東向きに建てられており、主室「月の間」の正面には、大文字焼きで有名な明星ヶ岳を望みます。さらに、右手には浅間山(現在は建物で眺望は遮られる)、左手には明神ヶ岳の尾根が続き、箱根連山から昇る月を鑑賞できる、特別な土地として、こだわりをもって選定されたのです。屋敷の中心に設けた「月の間」と名付けられた主室は、3面ガラス張り。部屋の中にいながら、庭の木々や箱根の山、そしてその上に昇る月を眺めることができます。
藤田平太郎男爵は父譲りの骨董趣味をもち、茶道具や美術品に造詣の深い好事家としても知られていました。建築や庭園にも見識があり、内装に貴重な素材を用いたり、月景色を鑑賞するためにシンプルな構成の庭園を造営したりと、その審美眼を生かして“月見の館”を完成させたのです。
建築以来、多くの人を癒し続けてきた「貴賓館」。美味しいお食事とともに、100年前の文化体験が、皆様をお待ちしております。